『野球少年が行く』(シアトル滞在記)


日本人の皆さん、こんにちは。
このメールのタイトル『野球少年が行く』からして、「おまえはサッカー小僧ではなかったのか?!」というクレームが付きそうだけど、実は、やっぱり野球も好きだったのです。俺は日本のプロ野球では横浜ベイスターズ(今年は最下位争い?森監督でもだめなの?)のコテコテのファンなのだ。ベイスターズというよりも、前身の大洋ホエールズ時代からで、ユニフォームはオレンジ&グリーンという、幼ごころにも、「どういう色彩感覚しとるねん!」と思わざるを得ない程のハデハデだったのです。(選手で言えば、松原・シピン・中塚の頃ですね。現在20歳台前半の人は知らんだろうなぁ。その時代の帽子は未だに俺の宝物の1つです。)だから、シアトル行きの目的はあくまでも、マリナースに貸出し中の家宝「大魔神・佐々木」に謁見するためであり、イチローは言うなれば「グリコのおまけ、刺身のつま」でしかない。(と一応言っておこう。本当は、イチローが目的。)
今回のレポートは、ほとんどが野球に関することなので、ベースボールがない国の友達にメールしても意味がないし、しばらくの間、旅日記(英語版・日本語版とも)を書いていなかったので、シアトル(アメリカ)に入る前のバンクーバー(前編)も含めて日本語で書くでー。
今回、何人かの固有名詞が実名で出てきます。かなりローカルな話題もありますが。。。


『バンクーバーでの日々』
先週、ラスベガスを出てから、ロサンゼルス経由でカナダのバンクーバーにやって来ました。バンクーバーでは、2年以上前にニュージーランドで知り合ったマナブ(本名)の家に転がり込んで、彼はしっかり働いているというのに、2〜3日の間、俺は骨まで醗酵してしまうほどダラケタ生活をしていました。(ちなみに、こうして日本語でメール出来るのも彼のコンピューターがあるからです。)バンクーバーに着く前に、Eメールで「カナダでは、何もせず、のんびりとしたい」と伝えておいたら、彼は、俺のバンクーバーでの日々を「世界ラウンド終盤のヒーリング(癒し)期間」と名付け、俺がリラックスできるためのあらゆる配慮をしてくれ、俺の方はその好意を余すことなく享受している次第です。彼のもてなしは、殆ど完璧なので、マナブといる時には、俺はレイジーになれるんだよね。マナブという男は、俺の2倍以上まわりに気を遣い、5倍以上は頭が切れて、10倍の体力を持ち、250倍以上の英語力がある超人的な奴です。(彼はそういう環境に自らを置き、目的に向かって意図的に前進していくところがスゴイ。目先の欲望に走ってしまう俺には決して真似のできないことだなぁ。まあ、そういう生き方を変えるつもりもないけどね。)そんなマナブも、ゲームや賭け事・広い意味での人生の判断力とタイミング、そして料理においては、まだまだ俺に及ぶまでもなく、その部門においては言ってみれば、俺の弟子なのだ!(そんな事だけ自慢してもカッコ悪いだけだなぁ。)彼と俺とは、先にも言った通りニュージーのクライストチャーチで出会った後、シドニー、博多、そして今回のバンクーバーと3回目の再会ですが、お互いの本拠地(マナブ:関西&北海道、俺:静岡&関東)では会ったことがない。1年前の段階では、俺はニュージーランドから世界ラウンドに出発する直前で、彼は、たしか当時、東南アジアをラウンドしていた。それがこうやってバンクーバーなんかで再会できてしまうことが、旅の持つひとつの醍醐味ですね。昨年後半、俺がまだヨーロッパに滞在している間に、彼はバンクーバーで働き始めて、たまたま俺の世界ラウンドのルートにバンクーバーに寄る予定が入っていたので、「これは、合流してシアトルに佐々木&イチローを見に行くしかないだろう!そうだ、そうだ。」と2人とも血液中に大量のアドレナリンを分泌し、鼻息も荒く、この日を待ち続けていたわけです。シアトルに出発する前の数日間には、マナブのルームメイトのデイヴィット&クリスタ(カナダ人カップル)や、カナダワーホリを終了して日本に帰国直前のノリコちゃん(本名)と共にホームパーティー(もちろん俺が得意のスパイシーフードを作成)を開いたりして、飲みまくり久々にハングオーバー。このノリコちゃんも2年ほど前にニュージーで出会った俺とマナブの共通の友人です。こういう再会はワンダフルですね。
マナブが働いている時間には、インターネットをしたり(接続料フリーのプロバイダーらしい)、ノリコちゃんと共にマナブのバイト先(カフェ&レストラン)に散歩ついでに立ち寄って(注:バンクーバーのバス・ストライキは3週間目に入っているが、解決のメドが立っていない。だから、徒歩なのです。)、彼の仕事仲間のブラジル人とサッカーの話をしたり、かつてカジノのディーラーをしていたオーストラリア人とは、アメリカンルールとオセアニアルールの違いについてちょこっと話したりして。(ここのカフェのコーヒーとピザは、かなりイケてます。働いているみんなもラブリーだ。)マナブ達の家は、街の中心から車で10分くらいなのに、自然に囲まれた本当にのどかなところで、まるでニュージーランドみたい。時には、車の交通量よりも乗馬を楽しむ人達の方が多いくらいです。この家も馬、ニワトリ、犬、ネコなどがたくさんいます。マナブ曰く「短期の観光でバンクーバーに来た人の中で、この辺でのんびりすることを知っているのは、多分ココロさんだけやで。」そんなこんなで、バンクーバーでの、時はゆったりと、しかしあっという間に3日間が過ぎて行ったわけです。


『野球少年が行く(シアトル滞在記)』
マナブに仕事の休みの都合をつけてもらって、いよいよ、4月20・21・22日のシアトル・マリナースVSアナヘイム・エンジェルスの3連戦に出かけることになりました。バンクーバーからシアトルまでは、グレイハウンドのバスで3時間半。(長距離バスは、運行しています。)途中、国境にてバスを降りて、パスポートコントロール&荷物検査。俺は、ロンドンからニューヨークに到着した時に、ビザ・ウェーバーフォーム(ビザ申請を免除してもらうための申請。ややこしいですね。)の半券を持っていたのでパスポート審査を簡単に通過し、今回アメリカ初上陸のマナブのウェーバー申請を待ちつつ、手荷物検査に向かいました。ところが、ここで俺達の野菜サンドウィッチ(マナブが前夜に作成)が引っかかってしまったんだな、これが。(国境を越える場合、害虫や免疫への配慮のから、生の食べ物には特にうるさいよね。アレです。)女性係員は「ナマ物はダメだ。」と言ってきたが、俺は「国境を越えたら、3分以内に俺達の胃袋に消えてしまうから、見逃してくれ。」とお願いしたら、あっさりとOKになってしまった。結構いいかげんだなぁ。
そんなこんなでシアトル到着。バス・ターミナルから適当にYHA(ユースホステル)を電話予約したんだけど、結果的にこれがなかなかの良い選択でした。(後程、判明します。)ターミナルの近くに、ツーリストインフォメーションがあったので、街のマップとマリナースの前売券を売っているオフィシャルショップの場所を聞き、宿に向かう前に、まずは、チケット売り場に直行。(週末のゲームなのでこれが心配だったんだよね。)オフィシャルショップには、勿論、様々な公式グッズがあって、日本人選手のものは少し高目の値段設定になっていた。(まあ、かわいいものだ。イタリアのASローマのショップなど、中田グッズを買いに来る日本人には、思い切りボッタクルからね。俺はどちらででも何も買わなかったけど。)俺達は、店の奥にあるチケット売り場で3連戦のチケットの検討に入り、3日間それぞれ違う角度(席種)から観戦することにしました。初日:レフトスタンド(11ドル)、2日目:バックネット裏3階(15ドル)、3日目:一塁側アルプススタンド(15ドル)を購入して一安心。(今後、個人でマリナースを観戦に行く方へ:マリナースは今シーズン、最も観客動員の多いチームですが、チケットは、平日のゲームに関してはたぶん当日券でも大丈夫でしょう。週末の試合は、数日前にシアトル入りして前売りを買うのが賢明だと思います。まあ、日本のゴールデンウィークに当たる5月1・2・3日にシアトルで行われる予定の野茂・大家のいる、対レッドソックス3連戦はもう売り切れだろうけど。)
シアトルの街の印象:想像以上にデカくて都会。港がある美しい街。ぬけるような青空。工事中のビル・道路が多い。(更に発展中?!)NYやLAに比べたらシアトルの方が格段に快適で、結構気に入りました。
話は前後するが、このシアトル滞在(3泊4日)の俺達の目的。
1、何と言っても、ベースボール観戦。
佐々木&イチローだけでなくエンジェルスの長谷川も見たい。(イチローとの対戦を見る事が出来たら最高だ。) 球場においては、アメリカンジャンクフードの象徴・ホットドッグを不味いバドワイザーとセットで食いながら観戦する。(これは俺の持つメジャー観戦のイメージだったのです。) それから、必ずスタンドのどこかで観戦しているはずの「チチロー」を発見し、カメラに収める。
2、マイクロ・ブリューワリーを訪ね、オリジナルビールを飲むこと。
シアトルには、こういったマイクロ・ブリューワリー(パブ兼オリジナルビール製造所)がたくさんある。
3、スターバックス発祥の地シアトルでその1号店を訪ねコーヒーを飲むこと。
4、日系スーパー・宇和島屋は本当にイチローの好物の牛タンを輸入開始したのかを確認する。ついでに俺達も牛タンを買って、宿のキッチンで調理し、久々に日本の味覚を味わいたい。
ってなところです。


【第1日目】 4月20日() 天気:快晴。
3日分の前売券がすんなり買えたので、ナイトゲーム(19:05開始)までの間、YHAでマイクロ・ブリューワリーの一覧表を手に入れ、早速そのうちの1つがYHAから徒歩1分の距離にあることを発見。ビール好きの俺達は、バス停から歩いてきてモーレツに喉が渇いていたこともあり、「ここは、一杯やりながら3日間のスケジュールを立てようではないか。」ということになった。(こういう合意は極めて早い。)店の名前は『パイク・パブ&ブリューワリー』。店の奥には、ビール製造のための大きなタンクが見える。マナブがオーダーしたペールエールはコクがあってうまく、俺のゴールデンエールは酸味が効いていて喉越しが爽やかであった。他のブリューワリーを地図で確認してみると、郊外にあるものも多く、試合の合間に出かけるには適さなかったので、地ビールに関してはこの店の7種類を、滞在中に全部試すことにした。
スタジアムへのアクセスは、ローカルバスがダウンタウン内のみは無料らしいのでそれに乗っていくつもりだったが、30分〜1時間間隔の運行で、ほとんど役に立ちそうもない。俺達は、ビールで少し気持ちよくなっているので、地図に沿って歩くことにした。20分くらい歩くと旧スタジアム(キングドーム)の奥に新スタジアム「セーフコ・フィールド」の威容が望めた。(YHAからブリューワリーやスタジアムまで徒歩圏内なのはありがたいし、ここのYHAは、セキュリティーもキッチンラウンジの使い勝手も良いので、低予算の個人旅行でマリナースを見に来る人にはオススメです。)
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年前に完成した天然芝を持つ開閉ドームの外観は、小型の宇宙基地みたいだ。中に入ってみても、すべての設備が新しく、近代的で、清潔だ。
この日はレフトスタンド。ほぼ、バックスクリーン横なのでピッチャーの配球は見易い。(俺はかなり視力が良いのです。)席に着いたのは開始2時間も前で、まだエンジェルスがバッティング練習をしていた。長谷川は、他の投手陣と共にウォーミングアップを兼ねてセンターでフィールディングをしていた。あまりたくさんは打球が来なかったので、彼はチームメイト3〜4人と帽子をとりあいながら、相手の髪の毛を引っ張ったりしながら談笑していた。会話は聞こえなかったが、たぶん『若ハゲ』についての話題だ。
観客が増える前に売店に行っておかないと大変なことになるし、この日はナイトゲームなので日没前の方が良いと判断した俺は、早速ホットドッグ&バドワイザーを購入し、アメリカン・ジャンクフードを堪能する。不味くはないが、毎日こんなものを食べていたら健康に悪いだろう。
試合開始10分前に両チームのスタメンが発表されるが、まず、相手のエンジェルスへのブーイングがまったくなかった。なんて平和な街だ。続いてマリナース。『1番・ライト・イチロー鈴木』(もちろん英語だ)は、今や、3番・DH・マルティネスと並び大声援を受けるほどポピュラーだ。完全にシアトルファンの心を掴んでいる。
試合開始直前には、星条旗を掲揚してアメリカ国歌が斉唱される。俺は日本国民なのでまったく意味がないセレモニーであるし、アメリカという国がそれほど好きではないのだが、周りと一緒に起立してアメリカ国歌を聞いていると、なんか自分もちょっと強くなったような気がするのは気のせいだろうか。星条旗と国歌は『強いアメリカ』であり続けるための『合衆国』のアイデンティティーとして建国以来存在し続けているのだろう。ロスのドジャースタジアムで2試合観戦した時も、国歌斉唱は必ずあったので、米国内のすべてのプロスポーツの試合前にはこのセレモニーが行われるんだろう。(メジャーにはカナダのチームも存在するので、その時は両国国歌が斉唱されるのだろうか?)
さて、いよいよプレイボール。
一回表、エンジェルスが1点先制する。その裏、トップバッターはもちろん「イチィゥロウ・スズーキー」(アメリカンイングリッシュ的に書いてみました)。イチローは大歓声に応え、いきなり1塁線を破る2ベースを放ち、マリナースの新人連続試合安打の記録を15に伸ばした。こういうワールドレベルの中で、ごく普通にプレーする日本人を見るのはすがすがしい。サッカーで言えば、ASローマの中田も同じで、彼ら2人に共通しているのは、プレーの技術・現地文化への適応などの大前提は当然として、メンタル的な強さだと思う。うまく言えないけれど、彼ら2人からは、ワールドクラスと戦うにあたってのチャレンジャー精神的な「泥臭さ」、悪く言えば、「媚び」が感じられないでしょう?
彼ら自身がメジャーリーグやセリエAに入ってプレーすることが当然であるような顔でプレーし、結果として当たり前のように素晴らしいプレーをする。それに比べると、我が家宝・佐々木はセーブを挙げた後のチームメイトの向かい入れ方にも少し日本人的(浪花節的)なところがあるし、1号ホームランを打った後の観客からのカーテンコールに応え、ベンチ前で深々とお辞儀をしてしまったメッツの新庄などは、メンタリティーの面で、まだまだ世界レヴェルに達していない。なにも、お辞儀をすることが悪いと言っているのではなく、新庄の中に、まだメジャーでプレーすることが「憧れ、夢」の段階であって、「日常」にはなっていないのだなぁと感じただけだ。(新庄は宇宙人だから規格外なんだけどね。)そういうメンタリティーが芽生えた時に、彼が本当のメジャーリーガーになるであろうと思うし、それを持つものだけが、あらゆる状況下で、世界と戦えると思う。(俺は本当に新庄には成功してほしいと思う。イチローが成功するよりも、彼が成功することの方が、次にメジャーに向かうべき人達に対する影響が大きいからだ。技術のことではなく、メンタリティー獲得の段階の問題としてね。)
話をゲームに戻すと、2ベースを放ったイチローは次のゆるいショートゴロの間に判断良くサードに進み、その後、ゲッツー崩れの間にホームに生還し、マリナースは1−1の同点に追いつく。試合の細かな内容は日本でも詳しく報道されていると思うが、イチローは第2打席でも外角の球をレフト前に運び、この日は4打数2安打だった。ゲームは、4回裏にマリナースが連打で2点勝ち越し、さらに8回裏にはハビエルのソロホームランにより4−1とリードを広げる。マリナースの先発・左腕ハラマーは、球速があるわけでもなく、素晴らしい出来というわけでもないのに、のらりくらりとエンジェルス打線を7回まで1失点のみに抑え(たぶんそういう投手だ)、8回からは、今季ヤンキースからマリナースに戻ってきたセットアップ(中継ぎ)のネルソンが登板した。彼はなかなか良い出来だったので「今日は大魔神の出番はないかな。」と思い始めていた。ところが9回裏の頭から、クローザー(抑え)として佐々木が登場。(俺はこのために来ているのだ。)バックスクリーンのオーロラヴィジョンにはKAZU!
KAZU!のカラフルな巨大文字が躍る。昨季の実績、そして今季のここまでの成績から完全にマリナースの守護神としてファンに受け入れられている佐々木を観客は大声援で迎える。(リリーフカーなどないので、外野スタンドのブルペンから走ってマウンドまで登場。)余談になるが、同名のカズヒロ(本名)というマナブと俺の共通の友人がいる。彼のニックネームも「カズ」なんだけど、この人ちょっとした「カブキモノ」(イノセントな問題児です)。ここ数日間、俺達は彼の話題ばかりしていたのでオーロラヴィジョンのKAZUと言う文字や球場のスタンディングオベーションをみて、「同じKAZUなのにえらい違いやなぁ。」と2人で大笑いしてしまった。
さてさて、マリナースのKAZUの方は、三振は奪えなかったが9回裏を3人でピシャリと抑え、相変わらず素晴らしい仕事をした。(さすがだ!)投手リレーをみると「先発、中継ぎ、押え」と完全に分業化しているところが、いかにもアメリカらしいよね。
スタジアムでは、各インニングの合間にはオーロラヴィジョンでクイズ、好珍プレー集、ゲームや、ノリノリの曲を流しておいて各TVカメラが客の中からダンスキング(クイーン)を選び出す、などのアトラクションがあり、観客を飽きさせないためのエンターテイメント的な演出はしっかりとなされている。また7回裏の攻撃の前には、「TAKE
ME TO THE BALL GAME」(私を野球に連れてって。)というタイトルの歌にのって観客のストレッチの時間になっている。(ロスのドジャースタジアムでも同じ曲だったので、俺は密かにこれを「7回裏のラジオ体操」とネーミングしてマナブに説明した。)
スタジアムでは、日本のような耳障りな鳴り物(ラッパなど)による応援などなく、拍手とブーイングが中心であることは当然ですね。ただ、ロスとシアトルとを比べると、シアトルの方が「イナカ」であることは否めなく、観客のヤジも穏やかで、ブーイングも仕方も甘い。たぶんニューヨークやボストンはロスより更に強烈だろうが、えげつないイタリアンサッカーファンに慣れてしまっている俺としては、多分どれもブーイングの内に入らないと感じるだろうけどね。
この日は、バンクーバーから移動してきて、このナイトゲームを見たので、結構疲れていて、宿に戻ってすぐ寝てしまった。長谷川の登板はあるのだろうかと考えながら、、、。


【第2日】 4月21日(土) 天気:(雲ひとつない)快晴
午前中まずは、魚・野菜などの市場をひやかしに行く。市民の生活感が肌で感じられるので、俺は市場に行くのが大好きである。
いきなり余談で申し訳ないが、この1年間の世界ラウンド中、ある一定の期間滞在した街では必ずといってよいほど、その街の市場を訪れた。特にバルセロナのサンジョセップ市場は俺のお気に入りで、その奥にある「バル」(市場の新鮮な魚・肉・野菜などをその場で調理してもらって食べられる。もちろんビールもオーダーできる。)には、何度通ったことだろう。安いしね。
話をシアトルの市場に戻すと、ここの魚屋は、軒先で客がサーモンを丸1尾注文すると、それを奥のカウンターで包装するために、そのサーモンが宙を舞う。(おっちゃんが奥に向かって投げる。)時には、真鯛やカニ(ハサミは縛ってある)が宙を舞うこともある。カウンター内の兄ちゃんはそれをすべてナイスキャッチするので、大勢の買い物客や観光客から大きな拍手が巻き起こる。そうやって市場をひやかした後、そのななめ向かいにある「スターバックス」(シアトル発祥の世界的カフェ・チェーン店)の1号店に突入。1号店は、見逃してしまいそうな小さな店で、店内にはテーブルさえ無いが、開店当時の店名プレートがちゃんと置いてある。(一応、持ち帰りのコーヒーを注文してから、そのプレートの脇にカップを持って立ち、写真を撮っておきました。)うーん、ちょっとミーハーだったかな。そのスターバックスの隣りには、チャイニーズ系の惣菜パン屋が何軒もあったので、それらをテイクアウトし、港を見下ろせるルックアウトで朝メシにした。緩やかにカーブする港をはさんでマリナースのセーフコ・フィールドが視野に入る。雲一つ無い紺碧の空。素晴らしいところだ。デーゲーム(13:05開始)に向けて、球場までゆっくりと歩く。
この日は、バックネット裏(3)だ。フィールド全体がとても見易い。試合前から俺の右隣に座った地元のおっちゃんと話しをする。

俺:「佐々木は日本でナンバー1のリリーフエースなのだ。俺は、佐々木が日本で在籍していた横浜ベイスターズのファンで、今は、マリナースに我が家の家宝を貸し出しているのだ。」
おっちゃん:「アリガト(ここだけ変な日本語)。彼は本当に素晴らしいピッチャーだ。大切に使います。」
俺:「うん、うん。まあ、我がベイスターズは佐々木がいなくても強いので、心配せずに佐々木を使って下さい。(ウソ)」

てなことをしゃべっているうちにプレイボール。ゲーム序盤は、投手戦というよりも貧打戦だった。前日にも感じたことだが、マリナースの投手力は良いが、打線の破壊力はない。エンジェルスの打線はそれ以下で、エンジェルスの投手陣はシーズンを通して打線の援護が少なく大変だろうなぁ。3回の裏、マリナースはヒットと四球などで満塁のチャンスを迎える。ここで4番のオレルッド。彼は地元ファンの大声援に見事応え、ライトスタンドに満塁ホームランを叩き込んだ。ここでまた、おっちゃんとの会話。

俺:ジョニー(オレルッドのニックネーム)は、バッティングの時だけでなく、守備(1塁手)の時もヘルメットを被っているが、なぜだ?」
おっちゃん:「彼はもともとピッチャーだったんだ。しかし、7〜8年前に脳を手術して投手生命を絶たれた。その後バッターとしてカムバックし、今は我がマリナースの4番だ。」


俺は普段は強がったことを言っているが、基本的にはかなりセンチメンタルな人間なので、こういう「ええ話」には弱い。俺は今後も、オレルッドの成績は気になるであろう。
エンジェルスも4回表に1点を返すが、なにせ打線が繋がらない。(マリナースの投手の調子も良いわけではないのに、、、。)その後、両チーム1点ずつを加え、5−2のマリナース勝利で、試合は淡々と終わってしまった。イチローは5打数ノーヒットに終わった。この日のエンジェルスの先発は、左腕のワッシュバーンで、今シーズンイチローはサウスポーを苦手にしているので、嫌な気配は試合前からあった。右投手からは4割強の打率を残しているが、左投手には2割を切る成績だ。おっちゃん曰く「イチローがノーヒットなのは珍しい。」(おっちゃんは、イチローの日本での活躍を詳しく知っていた。彼は連続首位打者を取るだけでなく、ゴールデングラブ賞を取るほどの守備の名手であると。)いずれにせよ、後続のピッチャーにも抑えられ、イチローの連続試合安打は途切れてしまった。
この日、佐々木と長谷川の登板はなかった。
午後4時半にはゲームが終わってしまったので、日系スーパー宇和島屋に牛タンの調査に向かうことにした。行ってみてまず驚いたのは、ほとんど日本のスーパーと変わらない品揃えだった。海外で生活したことがある人はお分かりだと思いますが、海外にある日系・アジア系のスーパーの品揃えは、弱冠は、現地の食文化に対応したものになっているよね。でもここは、日本そのものだった。売場面積もデカイ。俺達はまず、牛タンを探すため肉売り場に直行。う〜ん!?ない?ない!5分ほど探したのち、パック入り牛肉スライスの横に申し訳程度に、「テリヤキ・牛タン」(パック入り・薄い牛タンが5枚くらい・テリヤキのタレに浸けてある)を発見。しかも1パック5ドルくらい。俺は、マナブに言った、「牛タンがテリヤキで食えるか!しかも高い。牛タンは、やめた。」
その時「お徳用・牛肉スライス・大盛りパック」(3ドルちょっと)が俺達の目に入っていたのは言うまでもない。牛タンはイチローの大好物で、夏バテをしやすい彼には牛タンを食って頑張ってもらいたいものであるが、この牛タンで満足するのであろうか、奥さんの弓子さん(TBSアナウンサー)もここで牛タンを買っているのだろうか、と想像しつつも、「お徳用・牛肉スライス」に変更した俺達だった。
宿に戻って、先ほどゲットした「牛肉スライス」を使い、和風焼き肉丼と韓国風焼き肉丼の2種類を作成。我ながら、なかなかの味だったが、メシを食いすぎて動けなくなった。ここの宿の唯一の欠点は、アルコール類の持ち込みが禁止(今時珍しいYHAだよね。)で、本当は2人ともすぐにでもパブに行ってビールを飲みたかったんだけど、、、。
しばらくトランプをして時間をやり過ごしてから、パブに向かった。今日は、サンプリングだ。サンプリングというのは、このパブで製造している全7種のビールを小さなグラスに注いでもらい、すべてを味わえるというものである。いわゆるビールのセットメニューで、たしか5〜6ドルくらいだった。7つのグラスを全部足せば、大ビン1本以上にはなるので、安くはないけど、そんなに高くもないといったところでしょうか。(一応ここはアメリカだからね。一般的に物価は安くないです。)銘柄の一欄表を見ながらテイスティングを始めた俺達だが、まだ先ほどの夕飯が腹にこたえていて、味わうどころか、7種類全部を飲み干すのが精一杯だった。
教訓。「サンプリングには、空腹で行け。」


【第3日】 4月22日(日)天気:くもり時々雨
前日までの晴天とはうってかわって、朝から曇り空で、時折パラパラと雨が降っていた。俺達は、この雨が嬉しかった。なぜか?それは、開閉式ドーム球場の屋根が閉まった状態を体験できるからである。
この日の席は、1塁側内野スタンド・外野寄り。わかりやすい様に甲子園に例えるなら、アルプススタンドだ。席に着いた時には、既に屋根は閉まっていた。(朝から降ったり止んだりだったから。)屋根が閉まっていると普通のドーム球場みたいだけど、完全密閉式ではなく、客席の上段と屋根の間には少し隙間があるので外の光も少しは射し込んでいる。日曜日のデーゲームなので家族連れや子供たちも多い。
ゲームの結果から先に言ってしまうと、この日はマリナースが完璧な試合運びをして、5−0で勝利した。点の取り方も、初回に1点、3回に1点、4回に2点、6回に1点と小刻みに加点し、投げては、先発のシーリーを始め3投手で、6安打完封リレー。(5点差があり、セーブポイントが付かないから、佐々木は出てこなかったけどね。)
イチローは、初回第1打席で、目の覚めるようなライナーで、セカンドの頭を超えるライト前ヒット。クリーンアップのフォアボールやヒットでホームインした。6回の第4打席ではランナーを1、3塁に置いて登場。エンジェルスのセカンドが1塁ランナーの盗塁を警戒し、セカンドベース寄りに動いたところを引っ張って、ライト前に運び、打点を記録した。マナブと俺が盛り上がったのは7回裏。0−5の段階で、3番手として長谷川が登板。長谷川は、このシアトルでの4連戦の前の、アナハイム(エンジェルスのホーム)でのマリナース3連戦にリードしている状態で登板したが打ち込まれ、敗戦投手になっている。だから、いま一時的に敗戦処理投手になっているのだろうか。俺達は、マリナースを応援しているが、長谷川だけは出てきたら応援しようと決めていた。野茂や佐々木のような決め球があるわけでもないのに、コントロール主体のピッチングにより、大リーグでプレーし続ける彼に声援を送らないわけにはいかない。実際には、長谷川はこの日ここまで登板した両チームのどのピッチャーよりも球が速かった。マリナースの下位打線相手ではあるが、3人でぴしゃりと抑えた姿には、ちょっと感動した。願わくばもう1インニング投げさせてもらえば、イチローとの「元オリックス対決」をナマで見ることができたのに。この日の投球によりエンジェルス首脳陣の信頼を回復し、また勝ちゲームでの中継ぎとして良い仕事をしてもらいたいものである。(若ハゲを突付き合って遊んでいる場合ではないで。)
長谷川との対戦が実現しなかったイチローの8回裏の第5打席は、パーシバルという右腕・速球投手との対戦であった。彼の成績表を見ると、昨シーズンは押えのエースとして大活躍しているので、このように負けゲームの終盤に登板する投手ではないハズだ。たぶん、故障上がりの調整だろう。イチローとの対戦では、常時95マイル(150キロ)は出ていたし、3球目は、なんと100マイル(160キロ!)だった。メジャーには怪物がいっぱいいるんだな。4球目をたたいて、イチローはボテボテの1塁ゴロだった。(この日5打数2安打。3試合で14打数4安打1打点。)
3試合、予定通り観戦が終了した。日本人選手を3人とも見れたし、マリナースはアメリカンリーグ西部地区で独走態勢に入った。残念なのは、チチローを発見できなかったことくらいかな。(まあ、普通なら彼はロイヤルボックスから観戦しているよね。)
あと、この3試合目でメジャーリーグオールスターの投票用紙が配られたので、外野手部門でイチローに入れておいた。マークシート式で、有力選手は、そのままマークするだけでOKで、イチローはそこに名前が載った初の日本人らしい。有力選手以外は、欄外に記入欄があって、そこに名前を書くことになっている。阪神ファンのマナブは「Shinjo」と書いていた。ちなみにこの投票用紙は、日本国内にも500万枚ほど配布されるらしいので、機会があったら投票してみるのも良いかも。
試合後は、再び、スーパー宇和島屋で白身魚とイカを購入し、宿に戻ってそれをガーリックとオリーブオイルで焼いて、夕飯にした。食後はごく普通のバーにビールを飲みに行き、酔っぱらってぐっすり寝た。


『再びバンクーバー』
シアトルで米ドルを思ったよりも使ってしまったので(殆どビール代だ)、今はまたバンクーバーのマナブの家でひっそりと生活しています。いやぁ、シアトルでの3日間は、遊びすぎた。そう言うと、「おまえはずっと遊んでいるではないか!」と突っ込まれそうだけど、俺だって真面目に旅人をやっていることもあるのです。「旅も遊びだ。」と言われてしまえば、返す言葉も無いが、「人生は、やった者勝ち」なので、俺のことを羨ましがっているだけではダメだよ。
最近は、マナブ(時には彼のルームメイトも参加)のシェアメシ隊長をやっています。この1年間、思うように料理をする機会が少なかったので、結構楽しいです。これまでに作ったものは、シーフードパスタ(イタリアン)、タコライス(メキシカン)、パエリア(スパニッシュ)、プルコギ(コリアン)、豚の角煮(和風)で、明日は中華粥(チャイニーズ)の予定です。
バンクーバーからオークランド(ニュージーランド)に向かう前々日には、ここのルームメイトの友達のカナダ人達(10人位)を招いて、ホームパーティーをやる予定です。彼らのほとんどは、日本食ファンらしいし、中にはベジタリアンの人もいるらしいので、手巻き寿司を中心に、和食の小鉢数品とシーフードを使ったアッサリとした中華かイタリアンでも作ろうかと考えています。皆さんの中には中には俺のメシを恋しがっている人もいるでしょう。(居ないか?!)レパートリーは増えているからね。今度会ったら作ります。

長々としたメールに付き合ってくれてありがとう。海外で日本語をうてる機会は貴重だからね。ついつい、長くなってしまいました。
バンクーバーを去る前にもう1度、「旅日記」をお送りすると思いますが、たぶん次回は英語でしょう。(今回のシアトル編は、もちろん日本語版しか作らなかったから。)次回の英語版は、今回と内容の一部が重複するかもしれませんが、あしからず。
メールのやりとりは、4月29日まで日本語でOKです。

では、近々またネット上で、お会いしましょう。
2001年4月26日(木)
久保山子呼呂
バンクーバー(カナダ)にて。